病気をもつ人の働き方の開発・普及

公開日 2023.04.17

ピーペック×在宅医療事務アウトソーシングサービス クラウドクリニック③ お互いの働きやすさをつくるコミュニケーションと適切な情報開示

ピーペック×在宅医療事務アウトソーシングサービス クラウドクリニック③ お互いの働きやすさをつくるコミュニケーションと適切な情報開示

3回の今回は、ピーペックから出向した齋藤の当時の様子から、現在に至るまでを現場のメンバー目線でご紹介します。病気をもつ人を雇用すると言っても、その環境整備やコミュニケーションが具体的にどう行われているか見える機会は多くありません。本記事では、病気や働く上で伝えておきたいこと、理解しておいてほしいことをシート上にまとめた「トリセツ(取扱説明書)」を上手く活用しながら、働きやすい環境をどうやってひとつひとつ整えて来たか、その実践についてご紹介します。


川島史子:ピーペックさんとの協働が決まり、真菜さんとのコミュニケーションを重ねてきました。特に紗英子さんはずっと真菜さんと業務を担当していましたよね。

竹牟礼紗英子:私は皆さんが話し合った後に直接業務を一緒にする担当だったので、もう出来上がった状態の真菜さんを受け取るという側なので(笑)、もう真菜さんのトリセツも出来上がった状態でのスタートでした。

私がスタートから入って、今は真菜さんとは一番長く一緒に仕事をさせてもらっているという状況ですね。トリセツもあったし、私は真菜さんの病気に対して、そこまで構えていませんでした。

元々リモートで仕事をしていたので、皆さん子育てや様々な事情を持っていることが前提でした。
真菜さんの体調の変化も、その中の一つとして考えるようにしていましたね。「私が真菜さんを助けるぞ」みたいな感じは全然ありませんでした。やっぱり片方だけがずっと助け続けるって難しいと思うんですが、その中で真菜さんはきちんとお仕事をしてくれて、業務の中でここはどうしても居てほしいところにも気を付けていてくれて、その他で真菜さんがお休みしたいと言っても、もちろん私たちもそこはフォローできるところで…っていう、バランスがすごくいい感じなんですよね。

向笠一華:紗英子さんに質問です。私も子どもの体調不良などで急に休むことはありますが、他の人とは違って病気をもつからこその特別な対応が必要だったことはありますか?

竹牟礼紗英子:他の人よりも休みが多いというのはありますよね。病院に通わなければいけない時間とか。例えば週45で働くときに、毎週お休みすることは社会人の中ではあまり無いと思います。ただ、現在リモートワークで、パートの方とか勤務時間を自由な形で組んでいる方もいて、病気だけに限らず、多様な働き方ができるようになってきていますね。

川島史子:短時間正社員の方もいらっしゃるし、働く曜日もその人の事情によって変更可能にしていたり、中抜けもOKにしています。クラウドクリニックはコロナ禍になってから在宅ワークが浸透しました。それまでは、なんとなく習慣的に通勤していました。なんとなく朝行って、一応オフィスに居た方がやりやすいし…というのをずっとやっていました。麻由さんもオフィスにいましたよね。

でもそれがコロナ禍になって、そこで私たちの当たり前も変わりました。「オフィスに行った方が効率が良いに決まっている」という思い込みが、「別に毎日いなくてもいいよね」に変わりました。オフィスに行って作業した方がいい時とそうでない時が、ピンポイントでわかるようになりました。

その中で紗英子さんは入社当初からオンラインでお仕事をされていた分、先に色々なメンバーとの働き方を体験されていましたよね。そういう意味では、そこが私たちはまだ、今日誰がどんな風に働いているんだろうとか「見える化」が出来ていません。真菜さんについては、それがチームの中でわかるようになったんですよね。そういう阿吽の呼吸、ルールが調整できるようになって、すごく落ち着いているんだろうなと思います。

真菜さんもそうですが、病気をもっている方を見ていて、季節によっても体調が変動するんだなとか、体調が変わる時期というものがあるんだなというのがわかりました。他のメンバーでも、元々頭痛持ちだけどこういう季節だと頭が痛くなるとか、そういうことを意識するようになりました。台風近いから痛くなるね、とか。

宿野部香緒里:そういうときはもう全員不調です。(笑)

宿野部武志:ピーペックでは毎朝自分の体調を110段階で表すんですが、そういうときはみんな「2」とかで。(笑)

川島史子:そういう外的要因と、本人の体調的なものと仕事量などは、色々な要因で重なっていくんだなということは、感覚として学びました。1年間一緒にお仕事してきて、わかってきたところかもしれません。

それぞれの働きやすさについて語る齋藤(左)、竹牟礼(中央)、川島(右)

竹牟礼紗英子:トリセツがあって、真菜さんはこうだからっていうのが先に頭にあったから、他の人のことよりも私は分かりやすかったなと思います。

向笠一華:真菜さんの入社をきっかけに、真菜さんと関わるメンバーもトリセツを作ってみようということになり、初めての活用でしたよね。

川島史子:各自の状況や事情などは、全員に、オープンに言いたかったら言っていいよという風にはしているんですけど、他のメンバーには内緒にしておいてくださいと言われることももちろんあります。

トリセツである程度の情報がある方が、関わる側からしても関わりやすいということがわかりましたが、オープンにする情報の内容や、見える化の仕方など、センシティブな情報の可視化はまだ課題ですね。

向笠一華:ただ単純に「どうしたの?」という声掛けから「ちょっと体調が悪くて…」って反応があって、相手の状況が分かれば対応が難しくないことでも、間違った気遣いでその一言が聞けなかった結果、不要な配慮や推察、勝手な想像で、お互いがもやもやしてしまうということも考えられますよね。

川島史子:そこにトリセツというものがあると、「ここまでは聞いてもいいんだな」とかが目安としてわかりやすいですね。

宿野部香緒里:クラウドクリニックさんで、紗英子さんが真菜さんのトリセツを受け取る前までをマニュアルにまとめたら、世の経営者の人たちがすごく病気をもつ人を雇いやすくなるんじゃないかと思います。
病気をもつ人が入ってきても、これだけ準備しておけば、受け入れ側の心構えはできている状態になります。あとは入ってきた人が環境に合わせてなるべく心を開いて、病気のことに関してオープンにコミュニケーションをとることができれば、スムーズに定着できるのではないでしょうか。

宿野部武志:ピーペックでは「みんつくゼミナール」という公開セミナーを行っています。病気をもつ立場と、医療者・製薬企業などあらゆる立場の人と患者・市民参画(※1)を考えているのですが、医療や情報のリテラシーも違うし、目指す方向や視点も違うので、協働するのはすごく大変なんですよね。

1回目にご登壇いただいた公益財団法人がん研有明病院腫瘍精神科部長の清水研氏がお話しされていた中に「思い込みとすれ違い」(※2)というものがあって、先ほど史子さんがおっしゃったように、配慮や思い込みから、適切なコミュニケーションをとらないと、年月が経つとギャップになっていくということが紹介されていました。

協働のスタート時点からトリセツなどでお互いを知ることは、組織としてのアウトプットをより良くすることに繋がります。知らない者同士が協働するときに、いかに早く安心安全な場を作るかは非常に重要です。

これはとても丁寧に行なわなければいけないのですが、人によっては面倒くさがったり、時間が掛かるからと避けてしまうので、色々問題が起こってしまいます。

「ダイバーシティ&インクルージョン」と様々な企業で言われていますが、CSR的意味合いだけでなく、本気で目指す企業をもっと増やしたいと考えています。

クラウドクリニックさんとの協働で実践したことは、本当の意味でのダイバーシティ&インクルージョンなので、拡げていくべきノウハウだと思っています。真菜さんには率先して取り組んでもらい、ピーペックとしては先頭に立ってやって拡げていきたいですね。

宿野部香緒里:両立支援と言うと、病気をもっている側へのサポートというように聞こえるけど、企業側の意識を変える方が先ですよね。これから開拓すべき分野だと思っています。

川島史子:どうやってその企業の中で価値を生み出せるかの支援をしていきたいですよね。真菜さんはクラウドクリニックで良いアウトプットの仕事をしてくれているというのが大前提で、病気の有無は関係なく、同じ目標に向かってお仕事が出来ています。

クラウドクリニックは、ピーペックさんと一緒に活動することで、他のメンバーたちの刺激にもなります。
クラウドクリニックはメンバーのうち女性が9割で、介護もついてくるし、更年期もついてくる。女性は色々なことを味わっているので、男性が作ってきた社会からまた新しい社会を作るという視点も一緒にノウハウとして提供していけますね。 企業側、働く側両方の視点でのアプローチができるのは非常に大きな強みですね。

思い込みとすれ違いについて語る

齋藤真菜:先ほどの思い込みとすれ違いの話は実感をもって体験しています。

現在は紗英子さんを含めた業務チームの中で上手くいっているというお話はしましたが、他に関わっていた人たちとの間で上手くいかなかったやり取りもありました。やはりそれは思い込みとすれ違いの問題だと感じます。

例えば、私からは「これは難しい、出来ない」と伝えたつもりが、相手からは「出来ないとは思わなかった、想像できていなかった」という反応があり、コミュニケーションが嚙み合わないということがありました。

今のチームでは日常的にすごくやり取りを密にしてお仕事をしているんですが、例えば業務連絡ついでに「昨日の通院どうだった?」とか「この間予定外で病院受診してたけど、体調は大丈夫なの?」などの声掛けを本当にナチュラルにしてくださっていて、こちらの状況を業務の合間にサラッと伝えられる瞬間を作ってくださるんです。

そうすると私も今後通院回数が増えるかもしれないといったことも予め伝えられるし、チームの方も「私もちょっと休みの回数が多くなりそうだから大丈夫だよ」とこちらにも伝えてくださいます。コミュニケーションがちゃんと成立しているので、すれ違いが起きないんですよね。

川島史子:予定が出来るかどうかはすごく大きいでしょうね。事前に予定が出来ているとフォローするとか、チームで出来ないところは他のチームから応援に行くなどの対策をすることができます。

実は、チームでは解決できないことというのはクラウドクリニックの中でも沢山起きています。そこが、突発的なものと、事前に予測できるものかで対策も区別できますね。

例えば、子どもが小学校や中学、高校の新1年生になる年は稼働が落ちるというデータがあるんです。「4月から1年生になるから稼働が落ちるね、じゃあ他のメンバー手厚くしようか」と先回りのフォローができます。先ほどの季節での体調変化も、あらかじめフォローが出来ますよね。

宿野部香緒里:マネージメント側は「今後どうなるかわからない」という状態でも、あらかじめ言わなきゃって思ってもらえるくらいの、言いやすい環境を作らないといけないですね。これは病気の有無にかかわらずです。

川島史子:「言ってね」と「言いにくい」の、二つの狭間ですよね。

竹牟礼紗英子:だから、あんまり業務と関係ない話もしておいた方がいいっていうことですよね。

仕事の話プラス、ちょっと喋ると雰囲気とかもわかります。その時の1ヶ月でどうしてもやらなければいけない仕事が私たちにはいつもあって、この量が絶対っていうのがあります。イレギュラーなことは、クリニックさん側の方で起きることが多いので、それに対応する私たち側として、真菜さんのイレギュラーをなくすことが結果的に真菜さん含め業務を負担なく回すことにつながるので、この形になっています。

川島史子:安定的にお願いしなければいけない業務で、真菜さんに任せられる業務量が、やっていく中で見えたんですよね。それが見えるまでは、お客様がクリニックという性質上、突発的な業務が当たり前になっていました。

でもそこを変えていかなければいけないと思っています。効率や、時間内に全部やるといった考え方ではなく、これからの働き方は、いかにアウトプットとして良いものを出せるかだけでいいのではないでしょうか。

そこにはITや、ICTなど色々な技術を使って補えるところが沢山あります。やり方を変えていくということにもっと注力していかなければ、マンパワーの減少に対応できませんよね。

医療とか介護福祉のニーズが高まる中、この医療分野に色々な人が入ってお仕事をしてくれて、色々な方が働ける状況にしていくことは、私たちクラウドクリニックの大きな役目だし、課題だと思っています。
真菜さんのようにチャレンジしてくれる方を私たちももっと受け入れるようにしていきたいです。教育ステップや、安心して挑戦して、安心して失敗して、でも大丈夫なんだ、って安心して居続けてもらえることをきちんと明確にしていかなければいけないですね。


今回は、病気の情報を開示して、コミュニケーションが円滑に進んだ例を紹介しています。病気の開示は本人の意思に任せられるべきであり、本人の病状や環境に応じた適切な開示の度合いがあると思います。双方が働きやすい環境をつくるために、雇用側が本人とよく相談し、本人の意思を尊重し丁寧に進めていくことが望ましいと考えています。

次回は「コロナ禍がもたらしたコミュニケーションの新時代 障害者雇用にとらわれない就労支援を」をご紹介します。

(※1)PPHプロジェクト

https://pphpj.ppecc.net/

(※2) みんつくゼミナール2022年第1回「思い込み」と「すれ違い」を無くそう(アーカイブ動画がご覧いただけます)

https://ppecc.jp/activity/post/000214/

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