公開日
2023.04.10
ピーペック×在宅医療事務アウトソーシングサービス クラウドクリニック② 病気をもつ人が生んだシナジー効果:当たり前を言語化し、心理的安全性の高い場を作るコミュニケーション
前回記事では、ピーペックとクラウドクリニックの協働のあゆみについて振り返りました。今回は、病気やその他の働きづらさを抱える人と働く中で醸成された、当たり前を言語化する文化、そのひとつのトリセツ(病気や働く上で伝えておきたいことなどを書く取扱説明書)、コミュニケーションについて、組織に与えた影響について語ります。
齋藤真菜:協働から1年が経って、最初の頃は初期研修からサポートいただいた高岡麻由さんや向笠一華さんに色々とご相談していましたが、今はだいぶそのやり取りが落ち着いてきました。クラウドクリニックの皆さんから見ていかがですか?
川島史子:最初は定期的に時間を取って、お互いを知らないから大事に段階を踏みましょうというところに、この二人をアサインしました。一華さんは元々病院で社会福祉士をされていたので、働き方に関しても熱い思いをもっています。
向笠一華:最初はやっぱりドキドキしました。一緒に働く仲間として、どのような体制を整えるべきか、私に何ができるのか、こちらも初めてだったので、不安もありました。もともと新人研修を担当していた麻由さんが初めの受け入れのところは進めてくれていたので、直接同じ業務で関わることのない私としては、何ができるかなと考えた時、ちょっとしたことでも話せる機会を作ること、その窓口の一つとして、私もいるよと負担にならないように伝えていきたいなと思いました。
高岡麻由:私は新しいメンバーの初期研修などもよく担当しているので、真菜さんとは話す機会を沢山作って、定期的に体調のことや、仕事への影響など、色々お尋ねしていました。
そこで「季節の変わり目は具合が悪くなりやすい」などと聞くことで、1回メールして「今大丈夫かな」って聞いてから電話したり、工夫が色々できるようになってきました。病気の有無に関わらずどんな方でも、 コミュニケーションは大事だなと最初の1年でものすごく感じました。
最近はもう真菜さんとはほとんどコミュニケーションの時間をとっていないんです。なぜかというと、真菜さんは紗英子さんという同じチームの素晴らしいパートナーに巡り合えて、紗英子さんを含めチームの居心地が良くて、困った時にスッと手を差し伸べてもらっているようなのです。だからもう、本当に今いい感じに安定していますよね。
齋藤真菜:最初の頃は体調のことを言うのも、「わがままだと思われないか、理解してもらえるのか」とちょっと構えてしまっていたんですよね。でも他の方も同じように自分のことを伝えてくださるようになり、「私だけが特別じゃない」と思える空気を作ってくださっていることが、最初の頃よりも困りごとや精神的な負担が少なくなった理由なのかなと思っています。1年経った今、私の中での有難い変化ですね。
この1年で、私は通勤の仕事からオンラインでの仕事に変わりました。最初は対面しないことへの不安もありましたが、リアルに対面している人だと、見た目は元気そうに見えるので、病気のことをすぐに忘れられてしまったり、元気だと思われたりすることがあまり良くないところだなと感じていました。 その反面、オンラインだと、姿が見えない=見た目で勝手に判断されないのがプラスに働いています。
その他にも、病気のせいで「●●しないと出来ないからやった」ことが、実は病気をもたない他の方にも役に立ったことが結構あるなと日々感じています。
例えば、私は指先の症状のせいで文字を沢山書くことが苦手で、音声を録音したり映像を録画したりして後から振り返ったりしています。それを、子どもの世話で会議に集中できなかったから、見せてほしいと声をかけてくださった方がいました。
そういった気付きをどんどんピックアップして、みんなが働きやすくなったらいいと思っています。
史子さんは、雇用側として「病気をもつ人」を迎え入れてからの新たな気づきや、プラスに働いた点はありましたか?
川島史子:私たち自身が、「絶対にこの時間に何かをしなければいけない」ことはなるべくしない形を良しとしていたので、その視点はすごく大きいですね。当たり前を変えていかなければいけないんだろうなというのは、真菜さんだけではなく他に色々な事情を抱えているメンバーを見ていても、沢山あると思います。
「何かあったら言ってね」と伝えて、何かあったときに言える人ならいいけど、気を遣ってくれるような優しい人だとそれを発信しづらかったりしますよね。そのちょっとした無理が積み重なると、すごく体調にも影響してきます。
そういったものを可視化する方法や、違う確認の仕方の模索は、トリセツ(※1)を作るときもそうでした。そういうことを考える時間が作れたというのはすごく大きかったです。今までも「そうだろうな」と思っていたものも、つい仕事が忙しくなるとどうしても後回しになってしまうタイミングだったので、真菜さんが入ってくれたことで、一緒に考える時間を作って、ピーペックさんと一緒にそれを振り返りながら「私たちはこういう風に思っていた」とか、ピーペックさんの方ではこうやっていた、ということをディスカッションして、ちゃんと構築することができました。
真菜さんの意見も聞けて、私たちも色々聞かせてもらって、その積み重ねてきた時間(=コミュニケーション)がすごく大事だったんだろうなと思っています。 なんとなくやっていて出来たではなくて、そこに時間を割くということを誰かがちゃんと決めて「絶対この時間とりましょう」って一緒にやってこられたから、今があるんでしょうね。もうそれが『当たり前』に落ち着いたことが素晴らしいことなんですが、そこまでの取り組みに丁寧に時間をかけさせてもらって、至らないこととかもいっぱいあって、やってみて失敗したこととかも沢山ありましたけど、それでもチャレンジできたことっていうのがすごく大きかったので、どれも失敗ではなく、変えていけるいいチャンスを沢山もらいました。
齋藤真菜:そうですね。そういうところに皆さんがすごく丁寧に時間や労力を使ってくださったので、上手くいかなかったことも含めて、それがあったからこそ私が今、クラウドクリニックの中に溶け込めてお仕事ができているのかなと思います。
川島史子:溶け込み過ぎて、最初の頃どうだったかなって思い出すのに時間がかかってしまいますね。
向笠一華:(業務を行う上で)まずは病気の特性によって生じる課題が何なのかを知ること、そしてその対応を検討する必要があると思い、最初に関わる時間を多くしました。
トリセツを上手く活用したりだとか、どう情報開示していこうとか、「ちょっと負い目を感じて入ってきているかもしれない」というところでコミュニケーションをとりやすくできるような環境を作ろうとか、ちょっとした配慮を心掛けました。その一つの方法として、お互いで共有できるシートに日々の感じた気づきや悩み、想いなどを何でも書き出してもらうことにしました(真菜さんの気づきシート)。そして、それを一つ一つ整理して課題ごとに分類整理する作業を一緒に行いました。
そこで出てくる課題は、病気をもつことによるものと、それとは関係なく、ただ新しい人が入ってきて起きるような課題とが混在していました。個人の問題や課題は誰にでもあるものですし、今も残ってる課題もあると思うんですが、それはそれでずっと継続して取り組んでいます。 しかし、病気の特性による課題という部分は何か対策を講じる必要があり、できる範囲で工夫して対応してきました。そこに関しては解決できてきているからこそ、今は私たちは真菜さんとはそんなに連絡をとることがなくなってきています。もう普通に溶け込んでそこにいるというか、仲間になったという感じですね。
川島史子:例えば、難病がどんなものかも、真菜さんみたいにオープンに伝えてくださると私たちも理解できるし、ご自身の口から伝えてくださるから、私たちも解決策がすごく示しやすかったですね。
齋藤真菜:元々の私もそうですが、自分から言えないという人もきっと沢山いると思うんです。でも会社側が伝えやすい空気づくりや態度で接してくださると、こちらも安心して伝えられるんだなと感じましたし、どういう風に言ったら伝わるかなとか、試行錯誤しながら色々と考えられるようになりました。
宿野部武志:安心安全な場、という感じですね。
この1年積み重ねてきたのは、組織の中で働きづらさを持ったときに、どう工夫をしたらいいか社員の皆さんが考える文化そのものですよね。
企業では何かトラブルがあったときに面倒だと思ってしまうことも結構多いと思うんですが、そうではなくて「病気になった人がいる」「介護が必要な人がいる」「子どもが病気になった」「仕事でトラブルがあった」、そういうことが起こった時に、それをチームで解決していく力が、長期的にみると企業成長に繋がっていきます。最近の言葉で言うと「レジリエンス経営」ですね。
何かあった時にそれを解決しようという取り組み、その過程が実は力を蓄えているという考え方が、多くの企業であまり出来ていないと思っていて、そこはまさにクラウドクリニックさんと私たちが学んだことです。
宿野部香緒里:真菜さんが病気について話しやすい環境を作っていただいたのは、クラウドクリニックさんの方が先だと思うんです。ピーペックよりも医療に近いというか、医療分野の企業さんということもあって、病気をもつ人を受け入れやすかったのかなと思います。
病気をもつ方との接点が全くないと、話を聞くのをまず怖がると思うんです。例えば、聞いてしまったら、その制度を作らなければいけなくなってしまうとか、その人のために特別な何かをしなければいけないから、ちょっと遠ざけてしまう。
ただ、そうした姿勢は仕事の効率を下げるし、仲間意識も薄れるし、もしかしたらその人も定着しない。ならば、最初に全部聞いてしまって、前もって話しやすい環境を作っておけば、 「体調が悪くなって、どうしようもなくなって、辞めるしかない」みたいな状況になる前に察せられますよね。
なので、ピーペックも真菜さんが入ってからは今まで以上に「何かあったら言ってね、言ってくれないと困るから」くらいの空気感を、病気の有無は関係なく作っていくことができました。この1年半続けてきた結果、回り道に見える丁寧なコミュニケーションが、逆にメリットに変わるということが証明できました。
川島史子:こんなに濃密に時間を取っているのにまだ1年半か…と思います。でも、それくらいいい機会をたくさんもらって、今ではもう当たり前として空気になりました。これってすごいなと思いますね。
最初はかなり定例会をさせてもらって、様々なコミュニケーションをとりました。例えば業務の中で病気をもつメンバーが患者さんのカルテを見たときに、もしかしたらご自身と同じような病状の方のカルテもあってショックを受けるかもしれないとか、どんなことが起こり得るかは、考えておかなければいけないなと思いました。
ピーペックさんがしっかり一緒に取り組んでくださるというのがあったので、安心して受け入れることができました。
齋藤真菜:そうやって沢山想像して考えてくださったので、安心感はすごくありました。史子さんがおっしゃったように、患者さんのカルテを見てちょっと心が痛くなるっていうことも確かにありますが、そういう細かい部分での心配もしてくれているということがすごく嬉しかったです。
つい怠ってしまいがちな「当たり前」のコミュニケーションが実は重要であり、その積み重ねが心理的安全性の高い場をつくることに繋がっていきます。病気をもつ人や働きづらさを抱えている人それぞれの視点を伝え合うことが、より良い組織づくりに活かされていくと思います。
次回は「お互いの働きやすさをつくるコミュニケーションと適切な情報開示」をご紹介します。