公開日
2022.07.29
わたしのこえ インタビュー【一般社団法人ピーペック 事務局長(CFO;財務)宿野部香緒里】
今回は、ピーペック事務局長・CFOの宿野部香緒里のインタビュー記事をお届けします。
病気をもつ人が圧倒的多数なピーペックにおいて、「非当事者」としてマネジメントする側であり、ピーペック代表の妻としてもサポートをしています。
普段あまり語られない、病気をもつ人と働く上での率直な感想もお話いただきました。病気をもつ人はもちろん、病気をもつ人と一緒に働きたい企業の方も必見のインタビューです。

一般社団法人ピーペック 事務局長(CFO;財務) 宿野部香緒里
1972年生まれ。生花企業にて企画営業、家業である園芸店勤務を経て、美容室専門の広告代理店にて企画営業、役員秘書、経営企画に従事し、2012年より代表と共に活動開始。講演・研修などサービスの企画立案、営業、法人運営全般を担当。病気をもつ人の家族としてのサポートも務める。
―――香緒里さんのピーペック立ち上げまでのキャリアをお聞かせください。
実家が園芸店をしていたこともあり、高校を卒業後にフラワーデザインの専門学校に行きました。その後は大手生花企業に就職し、店舗やオフィスの花のデザインを提案する、企画営業の仕事をしていました。
私の姉は重度の知的障害があり、施設で生活していましたが、一度実家に戻ってくる時期があり、それに合わせて会社を辞め、実家を5年ほど手伝いました。ちょうど家を継ぐか、結婚するかの年ごろで、家を出ることを決め、元から興味のあった美容室の広告代理店に28歳の時に就職しました。
―――広告代理店ではどのようなお仕事をしていましたか?
元々お店をやっていたので、セールスプロモーション(売り上げを伸ばすための広告)に興味を持ち、営業に力を入れて働いていました。しかし働きすぎて体を壊したのをきっかけに、内勤に変えてもらいました。内勤では、経営企画や役員秘書として経営を真横で見る機会に恵まれました。当時はまだベンチャー企業だったので、日々会社を大きくしようと奮闘している経営陣の隣で過ごすことで、大きな会社で駒になるより、全体が見える方が仕事は面白いなと実感しました。結婚に興味はありませんでしたが、働いている時にたまたま今の夫(宿野部武志)と知り合い、36歳で結婚しました。
―――ここで代表の宿野部武志さんご登場ですね! ピーペックの前に活動していたペイシェントフッドについても教えてください
ペイシェントフッドは、夫・宿野部武志の長い年月に渡る腎臓病・透析を通じた医療・福祉との関わりの中から生まれた会社です。 腎臓病・透析に関わるすべての人に寄り添い、自覚と自立をサポートしてきました。
結婚した際、夫は自分でやりたいことが明確にある人間だったので、ゆくゆくは勤めていた広告代理店をやめて、一緒に事業をしたいと思っていました。
そんな時に3.11の震災が起こり、通勤がとても大変になったと同時に、いつまた帰れなくなるかという不安感もありました。1年後になりましたが会社を退職し、ペイシェントフッドの3期目からジョインして一緒に活動しました。
設立当初は年商10万円くらいしかなく、障害者年金と自分の稼ぎで何とかやりくりしていましたが、これからは事業を成長させなければいけません。そのためにはまず宿野部武志が何者かを世の中に知ってもらう必要があると考え、ウェブ媒体である「じんラボ」をつくりました。それにより、ようやく法人らしい活動ができるようになってきました。
ペイシェントフッドを立ち上げたときから、病気をもっている人の「こえ」が製品になり、それが販売されるビジネスモデルの実現を目指していました。そのためには、同じ業界からお金をもらうことが必要です。講演や患者ニーズの収集などを企画し製薬企業に営業をして回りました。これが今のピーペックの「こえ」を届ける活動のルーツになっています。
こうした活動を続ける中で、腎臓領域だけでなく、他の慢性疾患の当事者も紹介してほしいと言われるようになりました。腎臓領域からもっと広い支援の在り方を考えていた時に、当時慢性疾患セルフマネジメント協会事務局長、現理事の武田飛呂城さんと知り合い、難病領域で活動していた池崎さんも一緒に、ピーペックを立ち上げたのが2019年1月でした。

―――病気をもつ人の家族として、「当事者」について感じることはありますか?
病気をネガティブにとらえず、アドバンテージ、つまり武器にしながら、やりたいことを実現していく様子は、そばで見ていて幸せ者だと感じます。
そこにやりたいことがあり、それを最大限活かして強みに変える。普通の社会で、普通に病気をもたず生活している人はそう簡単に武器をもてないので、その点においては幸せ者だと思いますね。
―――病気をもつ家族との関わり方は、先にお話に出てきたお姉さんの存在も影響しているのでしょうか。
生まれた時から、人が先で、病気がそれに付随する環境で育ってきたので、偏見がなく、フラットに見ることができると思います。病気(=武器)をもたない宿野部武志とは結婚していないと思いますし、彼を魅力的にしている原動力が、彼の場合「病気」だったと理解しています。
―――「非当事者」として活動していると、葛藤もあるのではないでしょうか。
以前はありました。腎臓領域で活動していた際は、透析をしてないのに、自分たちのことはわからないんじゃないかと言われたこともありました。
そうした経験から、自分が出るところと、引くところを明確にしようと決めました。当事者としてお話するのは宿野部武志、仕事の企画を考えたり、通訳に回ったりするのは私、という分担です。
特に、病気をもっている人と企業や医療者では、話が一筋縄では通じないことが多いので、非当事者として間に入り、お互いの言いたいこと、伝えたい事を通訳し繋ぐ役として立ち回るようになりました。
結果的に、企業や医療者側が重宝してくれるようになりました。企業側は、当事者と関わるとなると、どうしても余計な気を遣ってしまいます。そこに私が介入することで、お互いにとって適切な関わり方ができると信頼されていると感じます。
―――続いて、ピーペックについてお尋ねします。ピーペックは病気をもつスタッフが多く働いていますが、一緒に働く仲間として、感じることを教えてください。
メンバーはみな、自分のことをとてもよく分かっていると思います。一般のレベルより、自分の身体に責任感をもって生活していると感じますし、うまくコントロールしながら、できないところには線を引き、仕事も生活もしているのが本当にすごいと思っています。
また、本人たちはそう思っていないかもしれませんが、病気を強みに変えようとしているし、実際そうなっていることも素晴らしいと思います。変に病気のことで卑屈になったりしてないことも、素敵だと思いますね。
―――病気をもっているからこその強みがありますね。
今の世の中は、経営側としては、いかに頑張らせない、残業させない、働かせないようにセーブさせるか、そのマネジメントが課題になっていますが、ピーペックはそれがありません。
たくさんの時間働いたら、それだけ給料が良くなるのが日本の一般的な企業ですが、ピーペックはそうした文化がないので、体力の温存ができますし、逆にこれからの時代の働き方の先取りをしていると感じます。
―――ピーペックは働き方の先端を走っていますね!
外から見ると、それは弱者に合わせた働き方と言われるかもしれませんが、むしろこれが本来あるべき働き方と思っています。
ちゃんと週2回休み、仕事も無理なく在宅で回せる程度の量をこなす、という働き方。人として、病気の有無にかかわらず、とても働きやすい環境なのではないかと思います。

―――いいところをたくさん教えていただきありがとうございました。一方、実際病気をもつスタッフと働くことは、課題もたくさんあると思います。雇用する側として気づいたことなど、率直に教えてください。
気を付けているところは、1人に仕事を任せないことです。具合が悪くて動けなくなっても、だれかが必ずサポートに回れる状態を作るようにしています。
ただ、その体制を構築するには、それだけ人の数が必要になります。一般的な企業、日本の働き方だと、1人8時間働ける計算で回っています。それに合わせると、ピーペックの一人あたりのパフォーマンスは、0.3人分程度になってしまいます。今ピーペックには12人のメンバーがいますが、本当に誰でも安心して休める状況を作るには、メンバーは今の倍くらいほしいなというのが今の率直な課題です。
今の日本社会の働き方、つまり業務の工数や時間、スピード感などと、ピーペックでの働き方の間で、上手く落としどころを見つけたいと思っています。世の中の働き方がもうすこし柔軟になり、幅ができてくれたら、10人分の仕事をするのに、実質的に5人で回すといったことが可能になるのではと思っています。
こうした課題感を上手く社会に発信し、働き方自体を変えたいと日々思っています。
―――逆に病気をもって働く人向けに、職場での体調の伝え方などポイントがあれば教えてください。
まず大事なこととして、無理や我慢は必要ないということです。無理してしまって、もっと悪化してしまう方が大変なので、体調のことを伝えやすい環境をつくるのが経営者の使命だと思っています。
そして、私は病気をもつメンバーと仕事をしていますが、病気のことを全て詳細に把握しているわけではありません。「具合が悪い」と一口にいっても、それが長引くものなのか、薬を変えたからなのか、天気のせいで痛いのか、もし予測が立つなら予測付きで伝えてもらえると業務の見通しがつくので助かります。他の人にバトンタッチするタイミングもこちらで考えることができます。予測がつく具合の悪さは、予測付きで伝えてもらえたらいいですね。
―――ピーペックはみなリモートで勤務しているので、その難しさもありますね。
目の前にいると、表情や顔色で様子が分かりますが、オンラインだと分かりにくいですね。なので、よく熱を出すとか、季節で夏は体調が悪いとか、事前に予測できるような症状は先に伝えておいてもらえるといいかと思います。
―――就労環境整備を含め、ピーペックとして今後やってみたいこと、取り組んでみたいことを教えてください。
世の中の価値観を変えたいので、今のピーペックくらいの働き方が普通になってほしいと思っています。
そのためには、病気と関係のない一般企業の人事の方とのワークショップや、企業からの出向という形でピーペックと時間を過ごしてほしいと思います。純粋に、病気をもつ人と一緒に働いてみて、理解してくれる人を増やしたいです。本当にやってみたいし、できると思っています。
また、業務としては病気をもっているからこそできる仕事を増やしたいですね。一方で、最近はこの「病気をもつからこそ」という考え自体も、固定観念かなと思っています。病気を持っている方がやりやすい、くらいの仕事を増やしたいです。病気の有無で分けたくないですね。ピーペックにおいては、病気をもつ側がマジョリティなので、それをみんなに経験してほしいです。

様々な団体、企業、当事者や支援者と一緒にワークショップを開催した。

―――最後に、読者の方へメッセージをお願いします。
コミュニケーションが何より大事です。知らないから怖いんです。その人がもっている病気、ウィークポイントを理解できるように、丁寧に聞き、話すことが大事だと思います。
そして、あまり過剰に、助けなきゃ、守らなきゃと思わず、ちょっと疲れやすい、ちょっと人より休憩が多めにいる人だと思って、まずは接してみる、会ってみるということが重要ではないでしょうか。もちろん双方の合意が不可欠ですが、もし可能ならば、アルバイトとか、まずは有期雇用からなど、お互いに理解しあう期間を設けるアイデアもいいのではと思います。経営者も、昔ながらの考え方にとらわれずに、柔軟に働いてもらうということを意識すればお互いにとってメリットがあります。
私の体感として、その人がもつ病気を知るのに、1年は必要だと思っています。ピーペックは試用期間を1年にしているのはそのためです。半年や3か月が一般的ですが、症状が季節で変動する病気も多いです。試用期間後、そのまま時短にするのか、案外もっと働けるのか、日数を減らして時間を長くできるのかが見えてきます。柔軟に、トライアルの期間を設けるといいのではと思います。
ピーペックの働き方を発信し、それを当たり前にしていくことによって、病気があってももちろん大丈夫だし、あってもなくても大丈夫な社会にしていきたいです。